84.
「ユーナの調合した薬、よく効いたと裏のナヴェンさんが言っていたぞ」「本当に? 良かったぁ、そう言ってもらえて」
ちょうど夕食を食べ終えた食卓で、ユーナは空になった皿を重ねていた手を止め、父レンドへと顔を上げた。
目覚めから三週間が経ち、すでに以前と変わらぬ生活に戻っている。家族でこうしてテーブルを囲って食事をするのも、すっかり“普段の風景”となっていた。仕事に関してもそうだ。店頭にこそまだ顔を出してはいないものの、両親を手伝って薬の調合を行っている。これまで培った知識と感覚がすっかり失われていないことに、ユーナは胸をなで下ろすばかりだ。
「明日は、薬草摘みにでも出てみようかな。この時期だとラモーネの葉なんかがたくさん採れそうだね」
声を弾ませながら食器を流し台へ持っていく。入れ違いに、食後のお茶を淹れた母マデラが、カップをテーブルへことりと置いた。
「ちょうどラモーネの在庫が少なくなってきたところだから助かるわ。無理をしない程度に採ってきてちょうだい」
「うん、任せて」
再び家族三人席について、揃って淹れたてのお茶に口をつける。
「……ねえ、お父さん、お母さん」
一息をついたところで、ユーナはちらと上目遣いに両親を見やった。
「どうした?」
「最近、王都の様子はどうなの? 私が眠っている間に、なにか変わったことあった?」
「ああ、そのことか」
レンドは心得たように頷いた。それもそうだ、ユーナがこの問いかけをするのはこれが初めてではない。目覚めてすぐの頃に、同じように街の変化について両親に質問したことがあった。
気がかりなことが、たくさんあるのだ。
シェリアスティーナとして過ごした最後の時間。ユーナには、嵐に飲みこまれるように姿を消すことしかできなかった。だが、あの後、本物のシェリアスティーナやアシュートたちを待ちうけていたものはなんだったのだろう? 無事にあの場をやり過ごせたのだろうか? もはやこの目で確認することは叶わないが、それでも知らないままではいられない。
だがしかし、目覚めてすぐの問いかけは、レンドに言葉を濁された。目を覚ましたばかりで周囲の状況まで知る必要などない、という彼の言葉は確かに一理あったが、ユーナはますます不安になるばかりだった。なにも変わったことはなかったと、気軽に返せない「なにか」が起こったのだとしたら。
お願い、教えて。お父さん。
「まあ、もうそろそろ世間の状況も知っておいた方がいいだろうな」
レンドとマデラは視線を合わせ、頷き合った。
「実は色々とあったんだ。この一年というよりは、つい最近の出来事ばかりだがな。――そうか、そういえば、ちょうどお前が目覚める前後のことだったか」
「色々あった、って?」
わずかに表情を強張らせたユーナに、すぐにレンドは首を振って、なんでもないと言うように笑みを向ける。
「父さんたちのような小さな町の人間には、あまり実感の湧かない話だけどな。少し前に、反聖女を掲げる組織が立ち上がり、王宮に襲撃をかけたらしいんだ。組織の人員の大半は、過去王宮で働いていたりして、聖女様と少なからず関わりのあった人たちだったようだな。怪我人が少し出たみたいだが、大きな騒ぎにはならなかったと聞いている。それでも十分、驚きだがね」
ユーナは真剣な表情のまま頷いた。
一番気がかりだった、反聖女派の襲撃の結末。
王宮の外には、「大きな騒ぎではなかった」と伝わっているのか。ならば、天使アンジェリカの言葉は気休めではなく真実だったのだろう。死者もなく、最小限の被害で反乱を鎮圧できたという――ああ、それならば、本当によかった。
「でも、どうやって事態を収拾できたの?」
「それが、国王ご自身が襲撃の場に出られ、組織の人間を説得されたそうなんだ。彼らを極刑にはせず寛大な処置を取るということと、一人一人からしっかり事情を聴取し、然るべき補償をするということ。その上、反聖女組織から数名を選び、国の査問会員に就かせることも約束されたそうだ。本当なら、すごいことだよな。国王御自ら出られたというのも、その説得の条件も」
「そうなんだ……」
あのロノが、国王の顔で反聖女派と向き合っている姿を想像することは、ユーナには難しかった。彼の顔を思い出す時はいつも、好々爺然とした柔らかな笑顔ばかりが浮かぶのだ。それでもやはり、彼はこの世界の頂点に立つ人物なのだ。もうすっかり受け入れたはずの事実が、未だにすとんと胸の奥まで落ちてこない。
「他にも大きな出来事があったな。これについては、今回の反聖女組織の襲撃と関連してのことなのだろうが……」
レンドはわずかに言葉尻を濁しながらも、先を続けた。
「聖女シェリアスティーナ様が、全国民に向かって、とある告白をされたんだ。父さんにとっては、王宮襲撃よりもこちらのほうがよほど衝撃的だったな」
「告……白?」
どくん、とユーナの鼓動が強く波打つ。
「ああ。なんでも、聖女様はこれまでずっと深い闇に心を囚われておられたそうなんだ。そのせいで、周囲の人たちを長く傷つけてきたと仰っていた。反聖女組織の襲撃は、間違いなく自分の過ちの果ての出来事だ、と。王宮のバルコニーに入れるだけの民を集めて、随分具体的なことまで話されてな。まあ、今はその詳細をお前に伝えることはしないが」
「そ、それで?」
「闇に囚われた聖女様というのは、自分だけではないと仰っていたよ。これまでの歴代聖女様も同じように苦しんできたと。そして、この先二度と、同じように苦しむ聖女様が生まれないことを願う、と」
「……」
シェリアスティーナは国民に向けて全てを打ち明けたというのか。ユーナは目の前がくらくらと揺れるのを感じた。
どうして、一体どうして? ――いや、まるで理解ができないわけではない。ユーナとて、彼女が今度こそ正しい道を歩んでくれたらと願っていたのだ。そのためには、まずは己の過去や罪と向き合うことから始めなければならない、とも。しかし、彼女はユーナと共にこの一年でしっかりそれらと向き合ってきたのではないか。今やっと新しい道を歩み始めたというのに――周囲に、それも全国民に心の内を打ち明けてしまうだなんて。これでは、彼女に対する風当たりは強くなるばかりで、思うように新たな歩みを進められなくなってしまうのではないか。
「でも、すごい勇気をお持ちの方よね、シェリアスティーナ様は」
動揺を隠せずうつむくユーナをよそに、マデラが独り言ちるように呟いた。
「自分の過ちを認めてやり直そうと思ったら、普通その過ちは自分の中で消化してしまいそうなものじゃない? もし公になっていなかったのなら、きっとなおさら。申し訳ないと思って、もう二度と過ちを繰り返すまいと思って、でも他の人に知られていなくてよかった、って心のどこかで安堵して。それをシェリアスティーナ様は、少しずつでも、私たち国民皆と一緒に消化していく道をお選びになったのよ。それって、すごいことだわ」
まるでユーナの胸の内を見透かしているかのような、母の言葉。ユーナはわずかに顔を上げた。
「そうだなあ、でも、我々には少し衝撃的すぎたかな」
レンドが頭をかきながらもマデラに相槌を打つ。恐らく、自らの手で数多くの命を奪ってきたことまでをもシェリアスティーナは打ち明けたのだろう。
「それで、シェリアスティーナ様はどうなっちゃったの?」
恐る恐る、ユーナは問いかけた。
過去を告白したからそれで終わり、というわけに行くはずがない。
「――これからは、神官塔にお篭りになり、神に祈りを捧げる日々を送っていくと決められたそうだよ」
「え……っ」
まさか、そんな。
椅子を蹴倒す勢いで、ユーナは思いきり立ち上がった。
「――うそっ!」
「ど、どうしたんだユーナ」
両親が目を剥いてユーナを見上げる。
変に取り乱せば二人に心配をかけてしまうと分かっていたが、レンドの言葉を聞いてなお、落ち着いていられるはずがない。
「篭るってどういうこと? もうずっとそこから出てこないの? みんなにも会わない? 神様に祈るだけの余生を送るってこと?」
「……ええ、そうよ。それが罪に染まった聖女にできる贖(あがな)いの全てだと、仰って」
同じく立ち上がったマデラがユーナの肩に右手を置き、なだめるように耳元でゆっくりと語りかけた。手のひらから伝わる母の体温が、どうにかユーナの心を鎮めてくれる。それでも、到底納得などできやしないが。
「そんなのって、ないよ」
声がわずかに震えた。
「大丈夫か、ユーナ?」
困惑した様子のレンドが、ユーナを気づかう素振りを見せた。ユーナは力なく首を縦に振ってそれに応える。倒れた椅子を元に戻し、再びゆっくりと腰を下ろした。
「でも、それじゃあ、アシュート……様。婚約者の、第一神聖騎士様は?」
ユーナの問いかけに、レンドは再び言葉を詰まらせた。伝えるべきか否かを迷っているのは明らかだった。となれば、こちらもよくない事実が待ち構えているに決まっている。
「ここまで話しておいてうやむやにするわけにもいかないか。聖女様と第一神聖騎士様とのご婚約も、つい先日解消になったよ。聖女様は、まもなくやってくる二十歳の誕生日に神の花嫁となられる運びとなったんだ。つまり本当に、今後は神官塔から出てこられないおつもりなんだろうな。王都の外れのこんな小さな町でさえ結構な動揺が走っているから、王宮では、それこそ天地をひっくり返すような大騒ぎになっていることだろう」
――そんなことって!
「それじゃあ、アシュート様は第一神聖騎士じゃなくなったってこと!?」
「いや、そういうわけじゃない。王宮の発表では、アシュート様については今後も変わらぬ形で国に仕えていかれるそうだ。まあ、そうは言っても、今後のことはまだ国王様でさえ分からない状況なのかもしれないがな」
そんな。アシュートまで、不安定な立場に陥ってしまっているだなんて。
ユーナは今度こそ俯いた顔を上げることができなかった。
ほんの少しずつ、希望の光が見え、その光を受けて顔を上げ、皆が前を向いて歩いていけるようになり始めたのだと思っていたのに。
どうして神はまだ試練を与えようとするのだろう?
「ユーナ」
レンドが優しい声で呼びかける。
「悪かったユーナ、お前がそこまで衝撃を受けるとは思わなかった。いきなりこんな話をするべきじゃなかったな。他にももっと色々、明るくて楽しい出来事もあったというのに」
「……ううん、平気。私、こういうことを知りたかったから。お父さん、ありがとう」
「なあに、たとえ王宮でどんなことが起ころうとも、お前や父さん母さんの生活はこれからも変わらないさ。毎日を正しく慎ましく暮らしていけば、身の丈に合った幸せを失うことはないんだからな」
「……うん」
ユーナはか細く微笑んで、頷いた。
「難しい話をしすぎてしまったな。今日はもう、眠ったらどうだ?」
「そうだね、そうするよ。ちょっと疲れた気がするし。……お父さんお母さん、おやすみなさい」
従順に言葉を返しながらも、ユーナは未だ混乱の渦から抜け出せていなかった。
父の言葉を理解できない。ここまで来て、大切な人々に更なる苦難の道が待ち構えているだなんてことがありえるのだろうか。自分は天使アンジェリカに努力を認められ、無事に役目を終えたはずなのだ。ならば、その先に続くのは誰もが幸せに笑いあえる未来でなければ。少なくとも、ユーナはそうなるはずだと信じていたのに。
(駄目なの? それは、夢物語にすぎないの?)
誰へともなく、ユーナは胸の中で呟いた。それからふらりと席を立つ。テーブルについた両手が鉛のように重かった。それを無理に持ち上げて、呆然としたまま顔を上げる。
その拍子に、心配そうな表情のマデラと視線がぶつかった。ユーナがこれほどまでに衝撃を受けている理由など知る由もないだろうが、それでも娘の異変はひしひしと感じているようだった。大丈夫だよ、わずかに細めた瞳で、ユーナはそう伝える。マデラがこくりと頷いてくれたのを見届けて、ユーナは自室へと上がっていった。
――大丈夫なのか大丈夫ではないのか、本当は分からない。自分の感情をうまく制御する術さえも、今は見つけられない。ユーナは明かりをつけることもせず、そのままベッドへ身体を放り出した。
それから随分と長い間、暗がりの天井を見つめ続けた。
眠気は一向に訪れない。時折抵抗をするように瞳を閉じてみれば、まぶたの裏にぼんやりと浮かんでくるのは、白の世界で向き合ったシェリアスティーナの鮮やかな笑顔だった。
(シェリアスティーナ、せっかく目覚めたのに、どうしてそんな道を選んだの? 私がこの一年頑張ってきたのは、あなたを神官塔に閉じ込めるためじゃなかったのに。――あなたを捕らえたいわけじゃ、なかったのに)
記憶の中のシェリアスティーナが、どこか寂しげに瞳を細めたような気がした。
「……」
ユーナはゆっくりと上体を起こす。
ベッドのすぐ側の窓から外を眺めた。点々とした村の灯りがぼんやりと視界に滲む。静かで、物音一つしないいつもの晩だった。
ユーナは身体を捻ってベッドから足を下ろすと、そっと部屋を抜け出した。足音に気をつけながら階段を下り、裏口から庭へ出る。外気がユーナの身をわずかに震わせた。夜空を見上げると、降り落ちそうな数の星々が明(さや)かに瞬いている。
小さな庭に置かれたままの椅子に腰を下ろした。なにをするでもなく、ユーナはじっと動かずにいた。どうしようもなくじれったくて、叫び出しそうになる。
そのまま、ひたすら夜風に身を任せる。
冷たい風がユーナの髪を揺らした。同じように揺れた草木が、葉をこすり合わせてさわさわと音を立てた。しっとりと湿り気を帯びた空気が、ユーナの胸をいっぱいに満たしていく。
(甘い)
この、夜露に濡れた柔らかな風が。
ユーナは焦点の合わないまま前を向き、ぼんやりとそんなことを思った。
おそらくは、随分と長い間、そうしていたはずだ。先ほどよりはずっと和らいだユーナの感情、しかしなぜだか無性に泣きたくなった。
「……風邪をひくわよ」
そんなユーナの意識をすくいあげたのは、いつの間にかすぐ側に佇んでいた母親のマデラだった。――本当に、一体いつの間にやって来たのだろう。裏口の扉が開く音にも、草を踏みしめこちらへ歩み寄る足音にも気づかなかった。驚きと共に振り返ったユーナの肩に、いつも自身が愛用している膝かけを掛けてくれる。
「どうしたの、ユーナ」
この夜の庭と同じくらい、凪いだ声でマデラは問うた。
「なにか不安に思うことがあるなら、お母さんに話してみない?」
「……」
月明かりに浮かんだマデラの頬笑みを、ユーナはじっと見上げる。強く強く奥歯を噛みしめた。そうしなければ、色々なものが堰を切って溢れだしてしまいそうだった。
「シェリアスティーナ様のこと、考えてたの」
「うん?」
「どうしてシェリアスティーナ様は、一生塔に閉じこもる道を選んだのかって」
とつとつと、思いを言葉にする。感情が暴れ出してしまわないよう、慎重に。
「犯した過ちの償いをするのなら、もっと他の形でも、いいんじゃないのかな。色んなところを駆けまわって、声を上げて、それこそ、もう二度と自分みたいな聖女が現れない世界を作るために、頑張ってみる、とか。」
「そうね」
「これからもっと、笑ったり泣いたり、たくさんしてほしいのに。精一杯、生きてほしいのに」
「そう」
分かっているのだ、自分の思いがシェリアスティーナに肩入れし過ぎたものだということは。もし今隣に佇む母親が、かつてのシェリアスティーナにより命を奪われていたとしたら、同じ考えを抱くことはできなかっただろう。
でも、どうしようもない。この一年を、他の誰よりも近いところで共に過ごしてきたのだ。
シェリアスティーナに、幸せになってもらいたい。
「優しい子ね、ユーナ」
マデラがそっとユーナの頭を自らの胸元へ引き寄せた。
「シェリアスティーナ様がご自身で選んだことなのだもの。きっとそれが、あのお方にとって一番の選択なのよ」
「……でも」
「お父さんもお母さんも、シェリアスティーナ様のお話のとき、王宮のバルコニーへ行ったのよ。聖女様の聖なるお力にあやかって、あなたが目覚めてくれたらいいと願ってね」
そうだったのか。二人とも、普段はそれほど信心深い性質(たち)ではないから驚いた。
「直接お顔を見ながらお話を聞いたから、分かるの。シェリアスティーナ様は、他の誰に言わされているわけでもなかったって。あの時のお言葉は、紛れもなくシェリアスティーナ様ご自身のもの。迷いや憂いは微塵も感じなかったわ」
「でも! シェリアスティーナ様は、ずっと苦しんできたんだよ。辛いことがたくさんありすぎて、心を病んでしまったんだから。それなら、これからは、罪を償いながらも、嬉しいことや楽しいことを経験したっていいと思う」
「救いは、もうすでにご自身の中にあるのでしょう」
マデラはユーナを真っ直ぐ見下ろした。
「私たちが見たシェリアスティーナ様は、とっても晴れ晴れとしたお顔をされていてわ。もうすでに心の闇から解放されていたのよ。きっと、シェリアスティーナ様がずっと求めておられたのは、なによりもその『救い』なんじゃないかしら。どんな喜びや楽しみよりも、かけがえのない『救い』。救われたから、それだけでもう、他になにもいらないくらい、本当に本当に幸せなの。絶望の果てを這うようにしてでも進んできて良かったと、その瞬間に思えたのだから」
「お母さん」
「私も同じ『救い』を得たからよく分かるわ。眠り続けたあなたが目覚めたあの瞬間、私はその場で死んでもいいと思えるくらい幸せだった。救われるっていうのは、そういうことよ」
「死んでもいいなんて、言わないで」
すがるようにマデラの袖を握ると、彼女はわずかに苦笑した。
「ごめんなさい。ただね、どうか分かってあげて。シェリアスティーナ様は、単に自分を犠牲にして全てを投げ出されたわけではないと。若いあなたには受け入れがたい決断かもしれないけれど、きっとシェリアスティーナ様はもうすでに幸せなのよ」
「……」
「王宮は、これから大変な時期を迎えるかもしれないけれどね。でもきっと、大丈夫。ロンバルノ国王や第一神聖騎士のアシュート様は、素晴らしい方々だと伺っているもの。どんな困難も乗り越えて、国とシェリアスティーナ様をこれからも支えていってくださるわ」
素直に頷くことはできなかった。それでも、おぼろげながら母親の言わんとすることは感じ取れたかもしれない。でも、――でも。
「さあ、今度こそ本当にもう眠りましょう。明日は薬草を摘みに行ってくれるんでしょう?」
「……うん」
「ゆっくりおやすみなさい、ユーナ。それでも眠れないのなら、温かいハーブティーを淹れてあげるから。いつでも私に声をかけて」
「ありがとう」
頷き、ユーナは立ち上がった。その拍子にもう一度空を見上げ、満天の星空に目を細める。
シェリアスティーナは今、どんな気持ちで過ごしているのだろう。アシュートは、ロノは、ライナスは? 今すぐ飛んで行きたい気持ちを抑えて、ユーナは家の中へと戻っていった。