back top next
二つの星、一つの月

11月16日

 一人暮らしって、結構気ままで気に入ってる。自分の好きなようにやって文句言う人がいないって、こんなにいいものなんだーなんて、最初の頃はかなり感激したりして。私の部屋はサークル仲間の溜まり場にもなってるから、一人きりで寂しいなんてことにもならないし。みんなでわいわいとお酒飲んでバカ騒ぎするのって、やっぱ楽しいしね。
 逆に気に入らないところももちろんある。まずはアパートの場所!ホントは大学のすぐ側にしたかったんだけど、思った以上に家賃がお高くて手が届かなかった。だから、考えてたより随分遠いところに部屋借りることになっちゃったんだよねー。駅からは割と近いのが救いかな。そうでなきゃ友達も近寄らなくて超孤独な毎日送ってたかもしれない。
 他に困るのが、やっぱり家事系かな。掃除とか洗濯とかすっごいダルい。とりあえず当たり障りない感じで片付けてはいるものの、そういえばもう随分掃除機かけてない気がする。洗濯は一応こまめにやってるんだけど(着るもの無くなるし)、干しっぱなしってのが多いかな。で、「これ着よ」ってのを洗濯バサミからもぎ取って使ってるような気がする。……うん、女としては、とてもヤバい気がする。
 料理もあんましやってない。夜はほとんどバイトとかで家にいないし、たまにいる時は疲れてて何か作ろうって気に全然ならなんだよね。あーマジで誰か作ってくれー。お料理大好きなカワイイ彼女が欲しいぜ。
 そして今夜のメニューはカップラーメン。かれこれ三日目になります。カレー味が大好物。それが証拠に三日連続カレー味なのでございます。
 ――あー、ほんっとヤバい!このままじゃどんどんダメ子になってしまうっ!
 お湯を注いで三分の待ち時間に、そんな自己嫌悪に陥って悶々と悩む私。三分間で悩んでるようじゃやっぱりどうしようもないダメ子だと自分でも思う。

・   ・   ・

 うちの両親は共働きだから、家のことには自然と僕も手を出すようになっていた。特に大学に入ってからは自由な時間も格段に増えて、昔は食器洗いや洗濯物の取り込みだけだった僕の仕事はいつのまにか多岐に渡っている。それが苦痛というわけではなくて、むしろだんだんと家事が趣味のようになりつつあるのだから文句も言えない。凝り始めたらどこまでも凝ってしまうのは、僕の長所であり、けれど八割短所であると思う。
 下に妹がいるのだが、歳が離れていてまだ小学六年生。風呂掃除くらいの手伝いはさせているけれど、あれもしろこれもしろと押し付けることができる年齢ではない。それにまだ小学生なのだから、好きなようにのびのびと毎日を過ごして欲しい兄心もある。
 ああ、でも風呂掃除の他にも強制している手伝いが一つあった。観葉植物の世話である。そんなに広い家でもないので、室内の植物は数えるほどしかない。その水遣りを妹に任せている。放っておけば枯れてしまう、けれど大切にすれば生き生きと花開くという生命の在り方を、体験を通じて理解して欲しいのだ。今のところ、元気のない植物は見当たらない。
 さて、そろそろ夕食の準備に取りかかろう。
 以前は母親が仕事から帰ってからさっと簡単に作っていたのだが、僕が時々用意をしておいてやると、それに甘えたらしく今ではすっかり作らなくなってしまった。こうしてなし崩しに僕の仕事が増えていくわけだけど、まあいいか。
 今日はスーパーでエビが安かったから、それを使って天ぷらを揚げよう。僕の天ぷらはサクサクしていて美味しいと家族にも評判がいい。コツは、卵の白身を入れないこと、衣に氷の粒を混ぜておくこと、この二つだ。そうすればべたついた天ぷらにならずにすむ。
 さて、明日の晩は何にしようか。

back top next